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【東京五輪 陸上女子1500m】日本新記録で決勝進出!田中希実「走る」ことのルーツとは?

陸上女子1500mと3000mの2種目で立て続けに日本記録を更新した日本女子中長距離界のホープ。大幅な記録更新はもちろんだが、勝負どころで他の選手を一気に引き離す“爆走”は衝撃の一言だ。東京五輪代表としても大注目の彼女に、「走る」ことのルーツとその意味を聞いた(Woman’sSHAPE Vol.21 2020年12月号より)。

取材・文_藤村幸代 撮影_丸山剛史

【写真】日本女子中長距離界のホープ、田中希実選手の写真4枚

──お母様は北海道マラソンを二度制した市民トップランナー。お父様も元中距離強豪選手という陸上一家に生まれ育ちました。やはり「走る」ことは身近なことでしたか?
「そうですね。幼い頃から母のマラソン練習で御岳山や高地合宿にもついていきましたし、父はランニングイベントの企画運営などもやっているので、給水などのお手伝いを通して市民ランナーの皆さんが走ることを楽しむ姿を目にしたり」
──普段の生活に走ること、走る楽しさが自然と溶け込んでいたのですね。子どものなかには「走りたくない!」という子も多いけれど。
「走ることが当たり前で、走るか、走らないかということさえ、とくに考えたこともないくらいです(笑)。幼い頃から色々な側面から陸上を見させてもらえたのは、陸上競技をやっている人たちの中でもけっこうまれな経験かなと思います。でも、当時はそれを自慢に思っている部分と、母だけが速いことをちょっと引け目に感じる部分もありました」
──田中選手も、チビッ子ランナーとして活躍されていたのでは?
「小学校のマラソン大会では勝負できていましたが、『お母さんが速いから(速いのも当然)』と言われて、でも兵庫県は陸上を小さいときから強化しているので、一歩学校の外に出たらまったく勝負にならないという。そのジレンマはあって、自分の居場所がよく分からないままいた感じです。その子ども時代の自信のなさを、今も引きずっているというか」
──日本の中長距離界を担うホープと言われる今の田中選手からは想像がつきません。
「でも、だからこそ『もっと速くなりたい』という気持ちは強いです。誰がどう見ても速いと言われるような選手になりたい。だから、自己ベストを常に更新したいという思いがあって、とにかく『行けるところまで速くなりたい!』という思いがずっと続いていますね」
──しんどいところから一気にギアチェンジして加速する。田中選手の走りからも「もっと速く!」という思いをひしひしと感じます。ジレンマから解放されて、自分の居場所を見つけたのはいつぐらいですか?
「小学校高学年から、やっと少しずつ全国レベルになってきて、中学に入学してから全国大会に出場できたり、2年生からは入賞したりとなってきて、やっとそこで誰が見ても速いと思えるようになってきたかなと。それはすごく自信になりました」
──中学3年生で全日本中学校選手権の1500mの全日本を制して以降、常に日本のトップ戦線で注目され続けてきました。挫折を経験したことはない?
「中学校、高校も折々で調子の浮き沈みや痛みが出たことなどもありましたが、なんとか波を乗り越えながら、上にはずっと上がり続けているという感じなので、そこまで落ち込んだことはないですね」
──では新型コロナ禍で大会の中止や練習がままならない日々が続いた2020年は、陸上人生のなかでもかなり試練の年だったのでは?
「この春からはオリンピックを見据えて、世界と勝負することを意識した練習に切り替えていたんですが、練習でキツイことをしても発揮する場がないことはすごく苦しかったです。でも、だんだん厳しい練習がこなせるようになり、大会がなくても練習で発揮できることが楽しくなり出してからは、やっと自分らしさが戻って来たかなという感じです」
──2020年7月には3000mで、8月には1500mで立て続けに日本記録を更新しました。飛躍の理由は?
「毎年1秒でもいいから自己ベストを更新したいと思ってやってきたことの結果というか。しんどい時期もありますが、どこかでそれを超えられる瞬間が来て、0.1秒でも削りたいと思っていたら、5秒、10秒と一気に更新している。自分でも〝え?〟ってビックリする感じが続いています」
──昨年の世界陸上では5000m決勝に進出。日本歴代2位の記録(当時)をマークしましたが、順位は14位でした。世界とのタイム差という壁はやはり大きいですか。
「そこの部分が大きいからこそ、『もっと上に行きたい、ほかの人たちよりもっと自分は速く走れるはずだし、勝負もできるはず』という思いがあります。先ほどはタイムが毎年、自分の想像以上に更新されると言いましたが、一方で『もっと速く走れるはず』と思う自分もいるんです。自信がない部分と自信がある部分が混在していて、その葛藤の結果、ある一線を超えたらタイムがすごく出るのかなと思っています」
──本誌の読者の中には、トレーニングの成果が停滞するなど壁に当たる人もいます。そういう方に対して壁を乗り越えるアドバイスやヒントがあればぜひお願いします。
「私も、うまく走れない時は『イヤだな』という思いが続いてしまうんですが、とにかく『イヤでもやろう』と気持ちを切り替えることにしています。逆に、そんな状況でも続けていたら、開き直りみたいなものが出てくる瞬間があって、以前より走れるようになることも多いんです」
──壁を突破するプロセスとして2段階あるわけですね。
「はい。イヤだなと思いながら走り続けるという段階をクリアすると、『別に走れなくてもいいから自分の全力を出そう』と開き直ることができる。そこまで行けば、意外にしんどくなく走れたり、しんどくてもタイムが伸びたりして、そこでまた自信がつくようになるという感じです。基本的には、これができないとダメだろうとか、本当の自分ならできるはずだというような練習からは、逃げずにやろうとするタイプかもしれないです」
──自分自身をすごく客観的に見ていますね。
「でも、走っているときは周りに目が行ったり、脚の動きにも知らず知らずに神経を使ったりするので、冷静な判断ができないことが多いです(苦笑)。だから、自分が調子よくレースで走れるときは無心のときが多いですね。自分に集中できる状態ができあがっているというか。だから何かも忘れて走れて、結果もついてくるんだと思います」
──その瞬間が、競技をやっていて一番楽しいときですか?
「走っている最中に、すごく楽しいって思いながら走っているわけではないんですが、『今の自分、走れてるな』ってワクワクするときがあるんですね。そういうときは結果も出るので、走り終わったらすごく嬉しいし、頑張ってきてよかったと心から思えます。それが一番喜びや、充実を感じるときかもしれません」
──東京オリンピックでの活躍も期待されています。オリンピックへの思いがあれば、聞かせてください。
「私の場合、速くなりたいという一心で続けてきたら、ここまでオリンピックに近づいてきて。でも、近づいたぶん、出たいという気持ちも強くなってきました。私も含めて、今までずっと温めてきた思いというのはどの選手にもあると思うので、きっと今までにないオリンピックになると思います。今は開催についての議論があって、やらないほうがいいという意見もありますが、そういう人たちの心も動かせるようなオリンピックになったらいいなと。延期されたぶん、今までにないくらいみんなの思いが強いので、きっとできるんじゃないかなと思います」
──最後に、田中選手にとって「スポーツ」とはどんな存在ですか。
「トップ選手にとって、やはりスポーツは自分のアイデンティティという所があって、私も〝走ること〟が自分の一番の個性だと思って、こだわりをもって今はやっています。ただ、これから競技をやめても自分の人生は続いていきます。だから、いつか競技を離れることがあっても、『陸上を最前線で、トップでやっていた時期があるから今の自分がある』と思えるような人生にしたい。そのためにも、自信と覚悟をもって陸上に取り組んでいきたいと思います」

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