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筋発達に役立つ「ファシアリリース」を理解する

筋膜のケアを習慣的に行う人は少しずつ増えてきているようだが、多くの人が筋膜の意味すら知らずにいる。今回はそんな人たちに少しでも筋膜について興味を持ってもらうために、筋発達に役立つファシアリリースについて解説していきたい。

文:Sarah L. Chadwell, NASM-CPT
翻訳:ゴンズプロダクション

ファシアリリースを理解する

新たなコンディショニングの突破口

人間の身体はとても複雑な構造をしている。身体を構成するたくさんの要素がそれぞれ役割を持ち、支障なく連携し合うことで、私たちは複雑なこの身体をうまく動かすことができるのだ。動作に引っかかりが出てくれば、そこから身体は不調をきたすようになる。その不調を長く放置すれば、それはやがて広範囲に広がり、動作や感覚に不具合を生じることになるのだ。

ボディビルダーには筋肉を発達させるという目的がある。筋発達を促すには、定期的に強い負荷をかけたウエイトトレーニングと、疲労回復のための食事や休養をたっぷり確保する必要があり、これらの基本的な要素を満たすことはボディビルダーの必須条件だ。しかし、基本的な要素を全て満たしているつもりでも、望むような筋発達が得られないと悩んでいるボディビルダーは実に多い。そこで、プラスアルファの何かが必要になるわけだが、何をプラスしていいか分からないという人は、この機会にぜひ「筋膜」について考えてみてはどうだろうか。

筋膜(ファシア)と筋膜(マイオファシア)

筋肉や筋肉群の周りには、幾重にも重なる結合組織の層がある。この結合組織の層の外側にあるのが筋膜だ。つまりは筋肉を包む外装のことである。紛らわしいのは、筋膜といっても筋肉の周りにある結合組織だけを指しているわけではない点だ。血管を覆ったり、神経、骨、内臓など、いずれも個々が膜に覆われていて、それらの膜の全てが筋膜なのである。

今回、ここで解説していく筋膜は、筋肉の構造と関わりのある筋膜である。文字どおり筋肉の膜である筋膜に焦点を当てていく。ちなみに、結合組織の総称を意味する場合の筋膜は「ファシア」で、筋肉の筋膜に限定する場合は「マイオファシア」と呼ぶことが多い。ここから先は、混乱を避けるためにもファシアとマイオファシアを分けて説明を進めていきたい。

マイオファシアは、筋肉を構成する全ての要素をひとまとめにする役割を担っている。運動によって筋肉が収縮、伸展するとき、当然、マイオファシアも引っ張られる方向に伸び縮みする。非常に柔軟性が高く伸縮力があるが、あまりに強い力で筋肉が伸ばされそうになると、その力にある程度までは抵抗することができる性質も備えている。

ボディビルダーのように定期的にトレーニングを行い、食事に気をつかっている場合はそれほど問題はない。しかし、例えばケガをしてしばらく運動から遠ざかっていたり、あるいはほとんど運動を行っていなかったり、食事に気をつかっていない人などの場合、本来ならゴムのように柔らかいはずのマイオファシアやその他のファシアが、硬くなってしまう傾向が見られるのだ。

でも、ただの膜でしょ? 本体そのものに影響が出てくるわけではないでしょ? などと思う人も多いだろうが、それは間違いだ。ファシアは、私たちの頭のてっぺんからつま先までを覆う巨大な膜であり、個々の臓器や血管、神経、筋肉を個別にまとめているだけのものではなく、全てが連結していて、総じてひとつの肉体をまとめ上げている。そのため、少しでも柔軟性に乏しいファシアがあれば、そこからほころびが生まれる。そして、そのほころびはやがて全身へと波及していくのである。

ファシアリリースは治療法

ファシアリリースは、炎症があったり硬くなっているファシアを探し当て、その部分を集中的に和らげるための治療テクニックのひとつである。

炎症が起きている部分があると、ファシアはそこの組織の厚みを増していく。この状況が起きると、身体には痛みや不快な感覚が出始める。これはファシアに異常が起きていることを警告するサインと捉えることができる。痛みはさらに緊張を高め、その緊張が炎症をさらに悪化させるという悪循環に陥る。この状態を長く放置すれば、その部位の柔軟性は失われ、可動域が制限されるという事態を招くことになる。

この悪循環を解決するための方法としてファシアリリースがある。ファシアリリースを行う目的は、マッサージやフォームローリングなどのテクニックを通して組織の緊張を和らげ、ファシアで起こっている悪化のサイクルを食い止めることだ。

直接的な刺激と間接的な刺激

ファシアリリースは、人に施術してもらう方法と自分で行う方法に分けることができる。また、患部に与える刺激についても、直接的なものと間接的なものがある。人に施術してもらう場合は、受ける側は全身をできるだけリラックスさせた状態に保つ。一方、自分で行う場合は必要に応じて負荷をかけるようにする。

また、患部に直接的な刺激を与える場合は、患部組織がほぐれるまで、一定の力を持続的にかけ続ける。硬くなっている患部にダイレクトな負荷をかけるやり方は、場合によっては顔をしかめたくなるほどつらく、不快に感じられるかもしれない。しかし、直接的な刺激ではそうする必要がある。それだけ強い負荷をかけることで、硬くなった患部のファシアをほぐしていくことができるのだ。間接的に刺激する場合は、直接的な刺激と異なり、大きな力は不要である。ただし、患部を心地よい範囲でストレッチさせた状態にして、弱い負荷をかけることが必要になる。

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