検査する大会はどうやって決まる? 何人検査するの? 検査対象者の選び方は? ドーピング検査の流れ検査を受けるときの注意点は? 違反を犯した場合の罰金は? 抜き打ち検査って何? などの、ドーピング検査における疑問は多いだろう。実際、ボディビルの大会や、公式のアスリート競技に出場して、ドーピング検査まで受けたことのある人、抜き打ち検査の経験がある人はそう多くはない。今回は、ナチュラルアスリートなら誰でも知っておきたい疑問や、これから大会を目指す方に見て欲しい、フェアプレイを脅かす「ドーピング」を排除するために、日本ボディビル・フィットネス連盟・ドーピングコントロール委員会事務局長の青田正順氏に、ドーピング検査を実施する競技会の選定方法や、実際の検査の流れについてお聞きした。選手であれば誰もが気になる、検査対象者の決め方についても教えていただいた。(アイアンマン2016年6月号「競技会ドーピング検査の流れ」から修正引用)
取材:鈴木彩乃
【大会出場者必読】◆競技会ドーピング検査の流れ◆
1 実施する競技会の選定
前年度12月に日本アンチ・ドーピング機構(以下、JADA)と日本ボディビル・フィットネス連盟(以下、JBBF)とで会議の場を設けます。JADAからはボディビル担当者の他にも教育指導の担当者が参加します。なぜならドーピングの意味がよくわからないままに検査だけを受けて陽性の反応が出てしまう、という事態を避けるためです。
ドーピング検査はボディビルだけでなく、あらゆる競技で行われています。中には中高生の育成世代も含まれます。真の意味でドーピング撲滅を目指すには、うっかり不注意で引っかかってしまう事例を防ぐ必要もあり、そのために教育指導を重点的に行っているのです。会議の内容は、教育の場として定期的に開催している講習会の内容調整と検査を実施する大会の選定です。基本的には全競技会・全出場選手が対象ですが、実際のところ選手・関係者の多くはブロック大会以上で行われている大会で、ブロックと県大会とを合わせて検査を行っていると感じているのではないでしょうか。
しかし、過去に県大会だけに出場した選手から陽性反応が出た事例もありますから、そういうことも考慮し広範囲を対象にした上で予算組みを行い、実際に行う競技会を決定していきます。
最初に予定は立てますが、気になる情報が入ってくるなど緊急性がある場合は、スケジュールを随時変更することができます。参考までに、例年は22~23競技会を対象に80~95件ほど行いますが、2015年度はアジア大会もあったので130~140件でした。
2 検査件数の確定
検査件数は、予算との兼ね合いで確定していきます。ボディビル競技会における陽性者が増えていることから、例えば日本選手権では2~3名への実施だったのが、近年6~8名に増えています。1検体につき尿検査で9万8000円、血液検査で15
万円ほどかかる上に、ボディビルでは全検体数の30%に血液検査の実施が義務付けられています。
検査を実施するにあたり、JADAから検査員(まとめ役のリードDCOと検査員DCO)、JBBFからはJADAと連携を図って検査と大会進行をスムーズに行えるように調整するための、選手エスコート役を務めるシャペロンやNFレップの派遣も必要です。それだけでもかなりの額が動きますが、9割はスポーツ振興基金によってサポートされています(残りはJBBF負担)。
申請をする際に多少の余裕を持たせておくことで、シーズン中に予定件数を超えることがあっても対応できるようにしています。なので、競技会と同じく検査件数も臨機応変ということです。緊急性に応えるためでもあります。
なお尿検査だけでも血液検査とほぼ同内容の成長ホルモン分析ができるようになりました。それによって運用がしやすくなった部分もあります。
▶ここで用語解説◀
・DCO→Doping Control Officer の略称。検査の対象となる競技者の検体を採取するJADA認定検査員
・シャペロン→検査対象者への通知およびドーピング検査室までの付き添いと監視を行う検査係員
・NFレップ→National Federation Representative の略称。JADAの検査員と協力して、円滑な検体採取が行えるようにサポートする、各競技団体からの係員
3 検査対象者の選出
検査を行う競技会において、予定の件数にどの選手を当てはめていくのか。いくつか方法があり以前から行っているのは、審査員が指名する方式です。事前に配布された記入用紙に3名なら3名の名前を書き込んで、回収後に名前が多く上がった順で実施が決定します。
最終判断は審査員長に委ねますが、内部の人間だけでなくJADAより派遣のDCOにも大会の様子を見てもらい、随時意見をいただきます。
他にも、JADAから「◯㎏級の何位」と事前に指定される方法もあります。多くのスポーツでは各種目の全優勝者、もしくは上位3名を対象としていますが、ボディビルにおいてそのような決まりは設けていません。
優勝者が指名されることもあれば、6位が指名されることもあります。選出の公正さを保つためでもありますし、そうすることが抑止力になるとの考えです。
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