栄養とサプリメントのスペシャリストである桑原弘樹氏に、自然免疫を維持するために必要な栄養素について語っていただく。
取材・文:飯塚さき 監修:桑原弘樹
コロナ禍にこそ
知っておきたい免疫の話
昨年から新型コロナウイルスの影響で、私たちの生活は一変しました。しばらく続くと思われるコロナ禍において、感染症にかからないようにするために、いまからできる予防策を考えましょう。
まずは、体内のATP が作り続けられている状態でいること。ATP は身体を動かすためのエネルギー通貨のようなものですが、身体に数分しかためておけないので、60兆個の細胞の一つひとつが常に作り続けています。ATPが作られている場所は、ミトコンドリアと解糖系です。これらがきちんと動くためには、きちんとした栄養素を取り入れることが大切で、バランスの悪い食事はATP生産を妨げることにつながります。栄養は、過剰も不足もNG。バランスがとれていることが重要で、そのおおもとの材料をきちんと整えるために、プロテインなどのサプリメントも一役買っているわけです。
その基本ができた上で、自然免疫を維持しておくこと。自然免疫とは、我々が日常的にもともと持っているものです。もうひとつは獲得免疫、いわゆる抗体のことで、これはワクチンに頼るしかありませんので、私たちがいまできるのはまずは自然免疫をしっかりと維持することです。
ATP がしっかりと作られるという前提ができたら、次にはグルタミンというアミノ酸が自然免疫を維持する筆頭に来ます。
グルタミンは体内でも作ることができる非必須アミノ酸で、体内に一番多く含まれているアミノ酸でもあります。これはあまり重要ではないと考えるのではなく、必要だから体内でも合成され、必要だから体内にたくさんあるわけで、実際に機能がたくさんあり、とりわけ、ひとつのナンバー1とふたつのオンリー1の機能があります。
ナンバー1の機能は、アンチカタボリック。筋分解を食い止める働きです。オンリー1機能のひとつは、小腸のエネルギー源となること。脳も筋肉もブドウ糖をエネルギーにしていますから、小腸でブドウ糖を消費しないように、グルタミンをエネルギー源にしています。つまりグルタミンが足りないと、小腸の働きが悪くなり、栄養がうまく吸収できません。加えて胃粘膜もグルタミンで修復されるので、消化器官にとってグルタミンは欠かせないアミノ酸と言えます。
もうひとつのオンリー1機能は、免疫細胞のエネルギーになること。免疫細胞とは白血球のことですが、これもグルタミンで元気になっています。実は免疫細胞の7割は腸に集まっていて、先ほどの小腸の話ともつながるのですが、グルタミン不足は免疫細胞のえさも足りないということ。逆に言えば、グルタミンを飲んで常に充足した状態にさせていると、風邪などのウイルスに罹患しにくいことが証明されています。
グルタミンに加えて有効な
ビタミンCとCoQ 10
ほかに、免疫を維持するために大切なのは、ビタミンC です。コラーゲンの補酵素であり、抗酸化の機能もあります。昔から、風邪予防のためにフルーツを食べる、はちみつレモンを飲むなどと言われていますが、それはビタミンC を摂るといいからです。
ビタミンC は、NK(ナチュラルキラー)細胞という細胞を活性化してくれます。NK 細胞は、白血球の分類でリンパ球というところに属する細胞ですが、ナチュラルキラー(生まれついての殺し屋)の名の通りパトロール役でありながらも非常に強い攻撃力を持った免疫細胞なのです。
つまりNK細胞が活性化している状態は、すなわち免疫力が高い状態と言えるわけです。このNK 細胞を作るためには、インターフェロンというタンパク質が必要なのですが、そのインターフェロンを作る際にビタミンC が補酵素として必要となるのです。
もうひとつ免疫に絡めて挙げるなら、還元型のCoQ10もおススメです。そもそもCoQ10は知名度はありますが、何に効くかわからない、値段が高くて買えないといった印象を持っている人もいるかもしれません。しかし、CoQ10はATPを作るのに不可欠な成分で、おおもとである食事(栄養)がしっかり取れていることと同じくらい大事なのです。
そしてCoQ10は、ビタミンC と同じように、それ自体も免疫に大きく関わっています。新型コロナウイルスに限らず、ウイルスが体内に入ってくるのは、9割以上が粘膜からです。そのなかでも圧倒的に多いのは上気道。つまり、鼻と口と喉です。唾液にはIgA といった抗体やペルオキシターゼ、リゾチーム、ラクトフェリンといった抗菌物質が含まれているのですが、CoQ10はこれら抗菌成分の宝庫である唾液の量を増やす働きがあります。ウイルスが体内に侵入するのを防ぐ、防御壁となる唾液がたくさん出る状態は、ダイレクトに免疫を維持することにつながるので、CoQ10は免疫の維持に大きく関わると言えるのです。
新たなアミノ酸
「5 -ALA」って何?
そして、最近新たなアミノ酸が注目を集めています。それが「5-ALA」です。5 -ALAはアミノレブリン酸といって、体内ではグリシンから作られているアミノ酸です。なぜいま注目されているかというと、この5 -ALA がコロナに効くという発表があったためです。
ウイルスには、スパイクというアンテナがありますが、そのスパイクを塞がれると受容体がわからなくなって細胞に入っていくことができなくなります。そこに、5 -ALA が寄与する可能性があるということのようです。
5 -ALA の元来の役割は体内でヘムという物質を作る材料となることです。ヘムはヘモグロビンの材料となり酸素の運搬には欠かせないものですが、もうひとつ電子伝達系においてATP を作る際の酵素の材料としても欠かせません。
つまりATP を作る上で大きく関与しているアミノ酸なので、コロナのスパイクタンパクとは関係なくとも私たちの生存には欠かせないものです。
5 -ALA はワインやタコ、バナナ、ほうれん草などに含まれるとされていますが、体内での合成以外に一般の食品から摂ろうとした際には、残念ながらなかなか十分に摂れません。
一般的な食品から必要量を摂取しにくいものを確実に補えるというのもサプリメントの意義ですので、その点においてはサプリメント向きのアミノ酸(の一種)と言えます。
続けてお読みください。
▶栄養とトレ―ニングのスペシャリストが考える「減量の5箇条」 前編
監修:桑原弘樹
1961年4月6日生まれ 愛知県出身。立教大学卒業後、江崎グリコに入社。スポーツサプリメント事業を立ち上げ、スポーツフーズ営業部長などを歴任し、現在はアドバイザー。桑原塾を主宰し、100人以上のトップアスリートのコンディショニング指導も行っている。
執筆者:飯塚さき
1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスの記者として『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、スポーツ庁広報ウェブマガジン『Deportare』などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。