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筋肉増強剤アナボリックステロイドの恐怖

なぜステロイドを使うのか

少なくてもアメリカの場合、そもそも処方箋なしでステロイド薬を投与することは違法であるにもかかわらず、アナボリックステロイドを使いたいという人は大勢いる。それは男性だけでなく女性も同じで、さらにテストステロンが体内で十分に分泌されている年代の若者たちもいたりする。

その理由は明白だ。できるだけ短期間で結果を出したいからだ。長い年月をかけ、少しずつ努力を積み上げて結果につなげるという面倒なことはしたくないのだ。できるだけ短時間ですさまじい量の筋肉を得たい。これがステロイドを使いたい人の願望なのである。

実際、SNS で自分のワークアウトを定期的に投稿している人たちの中には、わずかなトレーニング期間で身体つきが大きく変わった人もいる。1年未満で別人かと見間違うほどの筋量増加はナチュラルではまず起こりえないが、薬物を使えば十分可能なのである。

ただ、ここで誤解のないようにしておきたいのは、ステロイドユーザーは手抜きのワークアウトで結果を得たわけではなく、ナチュラルボディビルダーと同じくらいハードなトレーニングを行っているということだ。薬物さえ使っていれば、ダラダラと過ごしても筋発達が得られるというのはとんだ勘違いである。基本的にナチュラルの人もユーザーの人も高強度トレーニングと食事管理をしっかり行っている。両者の結果に大きな違いが出るのは、薬物の力を借りているかいないかの差なのである。

低テストステロン症でもないのに薬物を用いれば、当然、体内のテストステロンは正常値を超えるレベルまで高まる。このことが元々備わっている以上の能力をもたらし、信じられないほどの筋発達を起こすのだ。2017年の研究が『アメリカン・ジャーナル・オブ・メディスン』誌に掲載されている。そこには次のように報告されていたので紹介しておきたい。

「専門知識のない人がアナボリックステロイドを使用する場合、薬物は経口タイプ、皮膚に塗布するタイプ(クリームやジェル)、そして筋肉に注射するタイプがある。このとき用いられる量は、低テストステロン症の人が医師に処方されて投与される量の10〜100倍も多い」

これは実に恐ろしい話である。薬物を使わなくても、ハードなトレーニングと健康的な食事を継続すれば、筋発達は確実に起きる。確かにステロイドユーザーよりも時間はかかるかもしれないが、大切な健康を犠牲にしなくてすむ。

高強度、高頻度ワークアウトが可能?

アナボリックステロイドを投与すると疲労が早く回復する。つまり、ナチュラルトレーニーが最も気をつかう疲労回復のための時間や日数を、ドラッグユーザーは比にならないくらい短縮することができるのだ。

一般的に、ナチュラルトレーニーの場合、特定の部位をワークアウトしたら、その部位の疲労回復には24〜48時間が必要であると言われている。疲労が回復しないうちに次のワークアウトを行うようなことを続けると、なかなか筋発達は望めない。

一方、ドラッグユーザーの場合、特定の部位の疲労回復には1日もかからないと言われている。極端なことを言えば、ワークアウトを終えた数時間後に再び同じ部位を行っても問題がないということだ。これは、体内で分泌されるコルチゾールのような異化分解ホルモンをアナボリックステロイドが抑制してくれるからだ。

通常、ワークアウトを終えて疲労した身体の中ではコルチゾールが積極的に分泌されている。このホルモンは異化分解を促すので、十分に身体を休めないと筋肉の分解が進んでしまうのだ。ところが、アナボリックステロイドはコルチゾールと拮抗関係にあるため、アナボリックステロイドを投与しているユーザーの体内ではコルチゾールの分泌が抑制され、高頻度でのワークアウトが可能になるという仕組みだ。

高頻度、高強度でのワークアウトを行ってもオーバートレーニングに陥らないのがドラッグユーザーの特徴と言える。そして、そのようなやり方が、彼らの筋肉を短期間ですさまじいレベルにまで発達させるのである。

ここまで読んで、アナボリックステロイドがとても魅力的に思えてきたかもしれないが犠牲になる要素は多く、それは全て自分に返ってくるということを分かってほしい。

複数の研究で、アナボリックステロイドの様々な副作用が報告されている。副作用の程度はまちまちで、中には命を危険にさらすほど重篤な状態に陥る場合もある。 ちなみに、副作用の多くは薬物の使用をやめることで改善されるが、中には生涯を通して持続するものもあるそうだ。

ナショナル・インスティチュート・オン・ドラッグアビューズ(国立薬物乱用研究所)によると、アナボリックステロイドの使用は以下に示す副作用を含め、ほぼ全身の機能に悪影響を与える可能性があると報告している。

ステロイドユーザーが副作用に悩まされ、ついにアナボリックステロイドをやめる決意をしたとしても、他の違法な薬物をやめるときと同じように、気分のムラや倦怠感、うつ症状、不眠症、性欲の低下、薬物への渇望など、様々な離脱症状を経験することが多い。使用をやめれば大丈夫という考えは決して正しくはない。一度使うとなかなかやめられないのが現実なのだ。

先に挙げたステロイドの副作用を知ることで、使ってみたいという思いは恐らく消えるだろう。アメリカの場合、処方箋のないステロイドの購入は違法であり、常に違法の薬物を使用しているという罪悪感を抱えながら身体づくりをしていかなくてはならなくなる。薬物を使用してみたいと思っている人は、まずはこういった副作用を知り、やめるときも苦しみがあるということを肝に銘じておくべきだ。

アナボリックステロイドのような薬物は、専門の医師によって処方された場合にのみ投与すべきものだ。その目的は病気やケガなどの治療であり、決して筋発達を促すことを目的としたものではないのである。さきほど説明したような多くの副作用に悩まされる危険があることをもう一度考えてほしい。

医療目的でも副作用はゼロではない

先に紹介したテストステロン補充療法は、TRT(テストステロン・リプレイスメント・トリートメント)と表記される。TRTでは専門医が患者に人工テストステロンを処方するわけだが、TRT によって患者が副作用に悩まされることはないのだろうか。

調査によると、たとえ専門医による処方であっても、TRTによって患者が経験する副作用は皆無ではないそうだ。例えばTRT が原因で起きる可能性がある副作用には次のようなものがある。

ただし、これらの副作用がTRT によってすぐに発症してしまうというケースは少ないようだ。

例えばハーバード大学医学大学院が発行する『ハーバードヘルス』誌によると、TRT を長期受けている男性患者は心臓発作、脳卒中、心臓病などの心血管系疾患のリスクが高い傾向があり、それによって死亡する例がないわけではないそうだ。症例はまだ少ないようだが、TRT も絶対に安全であるとは言えないのである。

研究者は、TRT を希望する患者に対しては、医師は全てのリスクを必ず説明し、事前に理解を得ておくことが重要であると述べている。中には、前述した副作用だけにとどまらず、前立腺ガンが悪化したり、男性の乳ガンや良性前立腺肥大症の悪化、赤血球増加症、閉塞性睡眠時無呼吸などのリスクが高まる場合がある。

たとえ専門医による処方であっても、アナボリックステロイドの使用にはリスクは付きものなのだ。その点では、体内で自然に作り出されるテストステロンが増えたとしても副作用に悩まされることはない。

食事やトレーニングをうまく組み合わせ、体内で作り出されるテストステロンのレベルを上げたとしても、それが正常範囲を超えることはないのである。

人工テストステロンではそうはいかない。治療が必要なほどテストステロン値が低いならともかく、正常レベルなのにステロイドを投与するようになると、テストステロン値は正常範囲を超え、それが副作用をもたらすのだ。

繰り返しになるが、ナチュラルなやり方で身体づくりの結果を出すには時間がかかる。しかし、副作用に悩まされることはないし、大切な健康が犠牲になることもないのだ。医療目的の使用であってもこのようにリスクが伴うのだから、それ以外の目的での使用がどれくらい危険なのかは言うまでもないだろう。

コンテストへの出場

ウエイトトレーニングを開始して筋発達が得られるようになると、コンテスト出場に興味が湧いてくる。そこで、どんな団体がどんな大会を開催しているかについての情報を集めるわけだが、大きく分けて、厳密なナチュラル路線の団体とそうでない団体がある。

身体づくりをする人たちの年齢層は様々なので、コンテストも年齢層別のカテゴリーがあるわけだが、例えば中高年のトレーニーの中には先ほど解説したTRTの治療を受けている人もいるはずだ。実際そういう人でもナチュラルコンテストに出場できるのだろうか?

団体のコンテストでドラッグテストが行われる場合、選手の尿が採取され、尿中のテストステロンとエピテストステロンの比率が調べられる。つまり、医師が処方箋に示した量以上の使用を患者に認めない限り、そして選手の尿検査が陽性にならない限り、TRT治療を受けている人でもナチュラルコンテストに出場することは可能なのである。それでも、現在、TRT 治療中で、ナチュラルコンテストへの出場を考えている人は、事前に団体に問い合わせをしておいたほうが安心だろう。

続けてお読みください。
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