ウエイトトレーニングビギナーにとって、プロテインやサプリメントはどのように使うものなのか。誤解しやすいこと、理想の活用方法などを、栄養とサプリメントのスペシャリストである桑原弘樹氏に紹介していただく。
取材・文:飯塚さき 監修:桑原弘樹
知っておきたいプロテインの基本と、それ以上に重要な糖質の話
サプリメント総論
栄養と機能を理解しよう
初心者トレーニーの皆さんは、サプリメントにどんなイメージを抱いていますか。なかには、「飲めば身体が大きくなる」と思っている人もいるかもしれません。事実、私もその昔には、恥ずかしながらそんなふうに思っていた時期もありました。しかし、決して飲むだけで身体が変わるものではありません。また、しっかりとエビデンスを持って、正しく活用すれば効果を発揮するものなので、ここで改めて啓発していきたいと思います。
サプリメントには、大きく2つの顔があります。ひとつは「栄養」です。栄養補助食品と呼ばれる多くのサプリメントはこのケースで、内容としてはタンパク質やビタミンといった栄養が配合されています。もうひとつは「機能」です。クレアチンやカフェインなどがこれに該当します。例えばクレアチンを一生摂取しなくても健康には何ら問題はありません。それはクレアチンに栄養の要素がないからです。しかし、マックスパワーが持続するという機能がありますし、カフェインも同様に、覚醒するなどの機能があります。
さらに少しややこしいのは、栄養と機能の中間の顔を持つサプリメントもあることです。例えば、BCAA は9種類の必須アミノ酸の仲間ですから栄養の顔を持ちつつも、BCAA 単独での機能も発揮します。本籍が栄養で住民票が機能といったところでしょうか。また、サプリメントはモチベーションを上げるものにも一役買うことがあります。
トレーニングに対する意気込みや強度も上がるのです。例えば、減量期にファットバーン系のサプリメントを使うと、減量へのモチベーションも上がるでしょう。個人的にはこれも、サプリメントの役割のひとつとして挙げてもいいかなと思っています。
サプリメントは洋服などのファッションに少し似ていて、例えばセーターは保温という基本的な役割があり、そこに流行や好みの色やデザインが加わっていきます。さらにはお気に入りのセーターを着て気分を上げるなどの要素も無視できません。
ただしサプリメントの場合は、初心者はまずは栄養と機能の区別をしっかりと理解すること。これが一番大切です。では、それぞれのサプリメントには、どういった機能があって、どのように活用するといいのかについて、順番に紹介していきます。
プロテインの摂り方
理想の量とタイミングは?
トレーニングを始めて、まず大事な栄養素として思いつくのが、タンパク質だと思います。人が1日に必要なタンパク質の量はどれくらいかというと、およそ体重1㎏あたり1gと言われています。つまり、体重が70㎏の人は70gです。トレーニーの皆さんのように、身体を大きくしたい人や、マラソンのような競技で筋肉の減りが早い人は、体重1㎏あたりざっと1.5~2.5g です。
これだけのタンパク質量を確保するために便利なのが、プロテインです。タンパク質を補うのに、もっとも手軽なものと言えるでしょう。調理や保存の手間がなく、欲しい量を確実に摂れます。また、一般食品よりも吸収スピードが早いことも利点です。
問題は、1日のタンパク質摂取量のうち、どれだけをプロテインで補うか。もし、体重1㎏あたり2g 摂ろうと考えたら、その半分は食事で摂れると換算してください。一般的な日本人の食事は、極端にタンパク質が足りないわけではないので、残り半分をプロテインで補うのが普通の発想です。ただし、朝ごはんを食べない、量が少ないという人は、朝と昼の食事ではタンパク質が足りていないことが多い。その場合は、朝を中心とした日中は多めにプロテインを摂って、夜は少なくするのがポイントです。
プロテイン摂取のもうひとつのポイントは、トレーニングに絡めること。トレーニング中は、血中アミノ酸濃度を高い状態にしておくことが大切です。なぜなら、血中アミノ酸濃度が低いと、筋タンパクの合成が進まないからです。トレーニングをする前に、どれだけタンパク質を摂れているかが重要で、少なくとも開始1時間前までに摂っておくといいでしょう。
また、トレーニング中は、筋タンパクの合成ではなく分解のほうが進みます。トレーニング中はいわゆる飢餓状態に向かうので、なんとかエネルギー源を確保しようと、身体が筋肉を小さくするほうに働くからです。栄養的な観点で言うと、エネルギーが足りない状況下では、筋肉を大きくしている場合ではないので、トレーニング中は筋肥大しません。
ところが、トレーニングが終わった瞬間に、筋合成が巻き返しに入ります。エネルギー消費が終わって2時間ほどは、筋合成が活発になるタイミングです。ここで血中アミノ酸濃度を上げておきたいので、終わってから30分以内にプロテインを飲むことが推奨されています。この時間が「ゴールデンタイム」と言われているのはそのためです。身体が一生懸命筋肉を作ろうとしている時間に、プロテインを飲むことで理想の体内環境を作ってあげましょう。
なかには、食事で摂るタンパク質量で十分だから、ゴールデンタイムは必要ないという人もいます。しかし、それは筋肥大を目指すトレーニングを想定していない場合です。トレーニングは日常生活では想定していない重量を扱うわけですから、トレーニーには必須に近いと思います。一度の摂取量は20~40gが効率的とされていて、もう少し正確には除脂肪体重×0.5gくらいが目安になります。
知っておきたい
プロテインの種類と使い分け
プロテインと一口に言っても、いろいろな種類があります。最も一般的なのは、ホエイプロテインです。BCAAの含有率が高く、より筋肉には良いとされています。吸収スピードが速く、筋トレ後の筋タンパク合成と血中アミノ酸濃度のカーブがうまく合致するので、ゴールデンタイムに飲むのがおススメです。
もうひとつ、大豆由来のソイプロテインというものがあります。昔はアミノ酸スコアが100ではなかったのですが、その後アミノ酸評点パターンの測定の精度が上がって、今では100と認められています。ソイのメリットは、なんと言っても大豆イソフラボン。イソフラボンは大豆にしかない成分で、化学構造式が女性ホルモンに似ており、骨や皮膚、血流を意識するときは、大豆が圧倒的に向いています。また、中性脂肪を下げ、脂肪の燃焼効率を上げてくれます。大豆タンパク質に多く含まれるβコングリシニンが、肝臓で中性脂肪を作るのを抑制するので、脂肪が溜まりにくいのです。またホエイに比べて消化スピードが遅く腹持ちもいいため、減量やダイエットにも効果があります。さらに、ソイには乳糖がないので、牛乳でお腹を壊しやすい人にはいいでしょう。動物性・植物性で分けるとホエイが動物性、ソイが植物性となり、ヴィーガンでも摂れるのがソイプロテインです。
簡単に言うと、筋肉のためのタンパク質がホエイ、健康志向のためのタンパク質がソイと考えていいでしょう。言い方を変えれば、ホエイは減量には向かず、ソイはゴールデンタイムには向いていないので、ゴールデンタイムはホエイを飲んで、減量時などに小腹が減ったらソイを飲むなど、この2つのプロテインを使い分けるのもアリです。
筋肥大を目指すにあたり
重要なのは糖質
プロテインに加えて、初心者トレーニーに知っておいてもらいたいのが、糖質の重要性です。糖質制限による減量は、今ではブームを通り越して完全に定着しています。しかし、筋肥大を目指す人にとっては少し注意が必要です。断糖によって体重や体脂肪を落とすことは、あくまでひとつのテクニックであって、漠然と糖質を悪いものとする発想は改めなくてはなりません。
筋肥大のために大事な栄養素は、タンパク質=アミノ酸で、EAAやBCAA、HMB などが挙げられますが、筋肥大の単純な効果だけでいうと、実はアミノ酸より糖質のほうが重要です。面白い報告があるのですが、トレーニング後にタンパク質(必須アミノ酸)だけを摂る人よりも、糖質(ブドウ糖)だけを摂る人のほうが筋肥大し、その両方を摂った人が一番筋肥大したのです。先ほども筋タンパク合成と分解の話が出てきましたが、日常的には筋合成よりも分解が圧倒的に強いのです。
人の身体が遺伝子レベルで敏感に察知するのが飢餓、つまり糖質がない状態です。血中アミノ酸濃度が低くても人は気がつきませんが、血糖値が低ければ、お腹がすいたという強烈な合図によって気がづきます。空腹、つまり低糖質状態は、それだけ重要な警告なわけです。脳をはじめ、身体の多くは糖を材料として動いていますから、当然と言えば当然と言えます。 身体のエネルギーは、細胞内のミトコンドリアという工場で作っています。ここでは、酸素がないと、エネルギーが作れません。ただし、ミトコンドリアに入る手前で、無酸素でエネルギーを作れる「解糖系」という場所があります。ここで使えるのは、糖だけです。
ほんのわずかのエネルギーしか作れないのですが、空気がもっと薄かったような時代、大昔の生き物はそうやって生きていました。人間も今でも解糖系を持っていますが、それだけ糖質は大事だということです。
糖質を制限したときに脳内でエネルギー源となるのはケトンですが、ケトンはブドウ糖ほどの機能を発揮しません。最低限のことはこなせますが、細かい思考や鋭い洞察力は損なわれてしまいます。
ただし、近年なぜ糖質制限がもてはやされているかというと、多くの人が糖質を過剰摂取しているからです。いまの飽食の時代には、糖質が多すぎるので、減らすメリットが出てきました。贅沢な話ですが、現代に生きる我々は、糖質をうまくコントロールすることが求められているのです。それは、必要な時にはしっかりと摂取をして、不要な時には必要以上に摂取しないということです。
糖質をうまく利用して
トレーニングに生かそう
過剰摂取はよくないにしろ、エネルギー源であるグリコーゲンを使った後は、補充することが重要です。これを「グリコーゲンリカバリー」と言います。ゴールデンタイムにプロテインを飲む人は多いと思いますが、このときにこそ糖質も補充してほしい。また、トレーニング中にCCD というデキストリンを水分補給を兼ねて摂取すると、トレーニングの強度や効率が上がります。
1日のうちでいうと、朝起きてから午前中は糖質が足りていない時間帯でもあります。トレーニング中と後、さらに午前中といったタイミングで、糖質の補給を心がけてみてください。
一方で、制限したほうがいいタイミングや種類もあります。特に、トレーニング前の数十分は、単純炭水化物(ブドウ糖、ショ糖)の摂取をなるべく控えてください。
単糖類は、すぐに吸収されて血糖値を一気に上げ、急激なインスリン分泌を促します。この状態で運動すると、筋肉が糖を一気に取り込み始めてしまうので、低血糖になってしまうのです。トレーニング前には、チョコレートやガムシロップなどで急激に糖を補給するのは避けたほうがよいでしょう。
ただし、果糖のように血糖値を上げない糖やバナナ、ゼリードリンクといった、吸収が緩やかな糖を入れることは、むしろ正しいと言えます。また、トレーニング直後は、グリコーゲンの材料として吸収の早い単糖類を摂ってください。
せっかく始めたトレーニングですから、効率を上げて身体づくりに励めるように、ヒントとして覚えておいていただけるとうれしいです。
続けてお読みください。
▶プロテイン活用術!筋肉、肌、髪、爪などの材料になる”タンパク質”を知る
監修:桑原弘樹
1961年4月6日生まれ 愛知県出身。立教大学卒業後、江崎グリコに入社。スポーツサプリメント事業を立ち上げ、スポーツフーズ営業部長などを歴任し、現在はアドバイザー。桑原塾を主宰し、100人以上のトップアスリートのコンディショニング指導も行っている。
執筆者:飯塚さき
1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスの記者として『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、スポーツ庁広報ウェブマガジン『Deportare』などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。