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高重量を持ち上げたい、芸術的な筋肉美をつくりたいなら、「ブレーシング」と「バキューム」をマスターしよう

アスリートにとってブレーシングには明確な目的があり、これらをマスターすることで高重量のリフティングや競技能力の向上、芸術的なフィジークづくりにつなげることができるのだ。

文:Sarah Chadwell, NASM-CPT 翻訳:ゴンズプロダクション

ブレーシングとは何か

まずはブレーシングがどのようなものかを知っておきたい。トレーニング界では、そのままブレーシングという言葉で使われているが、英語の表現に「ブレース・ユアセルフ」というものがあり、これは一般の人たちの会話でもよく使われている。この言葉は、とてつもなく困難なこと、予期できないこと、苦痛なことに挑戦しようとする人に「覚悟して取りかかりなさい」と鼓舞するときに使われたりする。

トレーニング界でこの単語が使われるときも意味は同じだが、トレーニング用語として用いる場合は「ブレース」という状態を作ることである。

これはつまり、最大出力をするための体勢を作ることだ。ブレーシング状態を作ると、特定の動作での筋肉や関節をしっかり保護することができるのだ。

専門のコーチやトレーナーの指導を受けている人なら、高重量のスクワットやデッドリフトを行うときに「コアをブレースしろ」とアドバイスされたことがあるかもしれない。これはつまり、腹圧を最大限に高め、体幹部をしっかり安定させ、腰を守りながら指定の種目を行うという意味である。

しかし、そう言われても、具体的なやり方を理解して実践できている人はあまりいないのではないだろうか。

中には、無意識のうちにできている人もいる。例えばボクシングなどでボディにパンチを食らった瞬間、ボクサーは腹に力を入れて内臓に打撃のダメージが伝わらないように防御しているはずだ。まさにそれは、ボクサーがブレーシングしているのである。

ブレーシングの状態を作ると、体幹部の筋肉が一斉に作動する。つまり、胴部の全ての筋肉が強い緊張状態になり、まるで胴部に鎧をまとったようになる。この状態になると、脊柱がニュートラルポジション(本来の位置)に固定される。もちろんこれは正しい姿勢なので、最大限のパワーが発揮できる体勢で、しかも安定した動作を行うことができるのだ。

ブレーシングというのは、ただ体幹部に力を入れればいいというわけではない。肝心なのは呼吸だ。呼吸とブレーシングの関係を理解することで正しく横隔膜を使うことができ、それがブレーシングを極めることになるのだ。

呼吸と横隔膜

横隔膜は薄くてドームの形をしていて、肺の真下にある。この横隔膜も実は筋肉であることを皆さんはご存知だっただろうか。横隔膜の役割は呼吸を維持することにある。

横隔膜を意識しながら息を大きく吸い込んでみる。そうすると、横隔膜はギュッと固く平らになり、肺に入る空気に押し込まれて下方に押し下げられる。横隔膜が下方に押し下げられるので、肺にはよりたくさんの空気を取り込むための空間ができるわけだ。

では次に、吸い込んだ息を吐き出してみよう。このとき横隔膜は弛緩し、肺の中の空気を押し出すために元の位置にもどる。

横隔膜の動きを意識しながら深呼吸を繰り返すと、横隔膜がどのように動いているのかが頭の中に明確に描けるようになるはずだ。

横隔膜をこのように上下させる呼吸は横隔膜呼吸、もしくは腹式呼吸と呼ばれている。ここでちょっと疑問を持つ人もいるだろう。肺に空気をたくさん入れるのだから胸式呼吸ではないのか? そう思う人はおそらく、腹式呼吸は腹筋を使った呼吸であり、腹が膨らんだりへこんだりする呼吸だと考えていたのではないだろうか。しかし、実際はそうではない。

横隔膜を使った呼吸こそが腹式呼吸である。腹を膨らませるから腹式呼吸というわけではないのだ。胸式呼吸と違い、腹式呼吸では「横隔膜を意識して呼吸する」必要があるのだ。

腹式呼吸はアスリートに限らず誰にとっても役に立つことだが、特にリフティング系の競技者なら必ずマスターしたい呼吸法だ。その理由として以下の事柄が挙げられる。
●体により多くの酸素を供給することができる。
●二酸化炭素の排出を素早く行うことができる。
●心拍数を減らすことができる(心拍がゆっくりになる)。
●血圧が安定する。
●腹圧が高まるので、脊柱と体幹部を安定させることができ、高重量のリフティングを安全に行うことができる(腹圧を高める=腹腔内の空気によるクッション性が増す)

ブレーシングの練習方法

正しい腹式呼吸をマスターすることはブレーシングの練習になる。ただ、ブレーシング状態を作るための腹式呼吸の練習は、最初はウエイトトレーニングと切り離して行うようにしたほうがいいだろう。そうして腹式呼吸がしっかり行えるようになったら、ウエイトトレーニングと組み合わせてみる。

腹式呼吸によってブレーシング状態を作りながら高重量のリフティング種目を行うようにしてみよう。ブレーシング状態が作れるようになってからのほうが明らかに挙上重量が増え、動作が楽に行えるようになっているはずだ。ここでは、正しい腹式呼吸の練習をしたことがないという初級者のためのやり方と上級者向けの方法を紹介しておきたい。

【初級者向けの腹式呼吸練習】

1床にあおむけになる。膝を立て、両足の裏は床につけておく。片手を胸の上に、反対の手は肋骨の下あたり(腹の位置)に置く。手を置くことで、呼吸による横隔膜の動きが確認できるはずだ。

2まずはゆっくり鼻から息を吸う。できるだけゆっくり大きく息を吸ってみよう。息を吸い込むことで腹が膨らんでいくのが分かるはずだ。ただし、意識して腹を膨らませようとしていけない。横隔膜をしっかり動かした結果として腹が膨らむわけで、腹を膨らませようと意識するわけではないということを忘れないように。

3息を吸い込んだら腹の筋肉を意識し、しっかり緊張させる。

4息を吐きながら腹部をへこませていく。

5ここまでの行程で、胸の上に置いた手が、胸の膨らみで上下してはならない。空気は肺に入るものだが、横隔膜を使うので胸の動きはないはずだ。

6この状態での腹式呼吸を10回ほど繰り返す。

7この方法であお向けでの腹式呼吸が正しく行えるようになったら、次は上級者向けのやり方に挑戦してみよう。

【上級者向けの腹式呼吸練習】

1イスに座り、頭、首、肩をリラックスさせておく。2あお向けから座位に姿勢が変わるだけでやり方は同じだ。片手を胸に、もう一方の手を腹に乗せ、横隔膜を意識しながらゆっくりと鼻から息を吸う。3横隔膜を使って呼吸をし、息を吸い込んだらブレーシング状態を作ってから息を吐き出すようにする。4ここでも胸は上下させないように。5このやり方での腹式呼吸を10〜15回ほど繰り返す。

【注意事項】

この呼吸法は10〜15回を一日数回、ジム以外の場所で毎日行うようにする。練習を積めば積むほど横隔膜を使った呼吸法とブレーシングが身につき、意識しなくてもできるようになるはずだ。

十分に練習を積んだら、ジムでトレーニングに取り入れてみる。ただ、最初のうちは呼吸に気を取られて、リフティングのフォームが崩れてしまう可能性がある。そのため軽い重量から試すようにしよう。そのうち、意識しなくても横隔膜呼吸とブレーシングをリフティングに組み込めるようになっていくはずだ。

何度も繰り返すが、横隔膜を使った呼吸法とブレーシングは、練習を積めば積むほど自然に行えるようになる。高重量でのリフティングに取り入れる場合は、必ず意識しなくても行えるようになってからにしよう。

ボディビルにはバキューム

ここで解説している横隔膜呼吸は、高重量を扱うリフターだけでなく、バランスの取れた筋量を作り上げたいボディビルダーにもぜひ勧めたい。なぜなら、この呼吸法によって引き締まった胴部を完成させることができるからだ。

ボディビルダーの場合は、横隔膜呼吸+ブレーシングではなく、横隔膜呼吸+バキュームを行う。ウエイトリフターとボディビルダーでは目的が異なるので、用いるテクニックにも多少の違いがあるのでぜひ知っておいてほしい。

先に解説した横隔膜呼吸+ブレーシングの練習がどこででも行えるのと同じように、バキュームの練習もジム以外の場所で好きなときに行うことができる。特別な器具もいらないし、動作を伴わないので広いスペースも必要ない。静かに行えるので、練習の時間を気にする必要もないのだ。

やろうと思えば電車などの公共の交通機関で移動しているとき、仕事や勉強の合間やテレビを見ながら、寝転がりながらでも練習することができる。

ボディビルダーにとってバキュームを練習することのメリットは、これをしっかり練習しておくことで体幹部の意識が容易になり、ステージ上で美しい姿勢を維持し、身体全体の理想的なXシェイプを披露することができることにある。

ボディビルコンテストでは、ただ腕が太い、背中の隆起が見事である、割れた腹筋が目立つ、大腿部が太いというような個々の筋肉のサイズや仕上がりに重点は置かれていない。筋量に加えて全身のシルエット、プロポーション、デフィニションが際立っていなければならないのだ。

そのためにはポージングでの見栄えを良くすることが不可欠になる。だからこそバキュームは役立つのだ。バキュームの練習が十分にできているボディビルダーは、ステージ上で必ず注目されるのである。

腹横筋を強化するバキューム

バキュームを専門的に解説するなら「腹横筋をアイソメトリック収縮させること」という表現になる。噛み砕いて言うなら、表からは見えない深層部にある腹横筋を、動作を伴わずにギュッと筋収縮させることである。

腹部の筋肉といえば代表的な腹直筋、そして洗練された印象を与える外腹斜筋などがある。これらの筋肉は体表面に近い部分にあるので、体脂肪が落ちてくると解剖図のように筋肉の形が皮膚を透して見えてくる。

しかし、腹横筋は違う。腹直筋や腹斜筋よりも深い位置にあるので、どれだけ体脂肪を落としたとしても表面から見ることはできない。それでも、腹横筋を強化することは体幹部を細く引き締めることにつながるので決して軽視できないのだ。このことは芸術的で美しい体を作ろうとしているボディビルダーにはとても重要なことだ。

ちなみに、腹横筋がしっかり発達して機能していると、胃が出たりするのも防ぐことができる。360度、どの角度から見ても体幹部を理想的な状態に保ってくれるのが腹横筋なのだ。

中でもボディビルダーにとってうれしいのは、腹横筋をアイソメトリック収縮させることで瞬時に体幹部を引き締めることができる点だ。つまり、バキュームのやり方をマスターしていれば、すぐにでもウエストを数十センチも細く見せることができるのである。

バキュームのテクニックをマスターするのに2〜3週間かかってしまうとしても、鏡に映る自分の姿を短期間で大きく改善することができるなら、バキュームの練習をしないという選択肢はないはずだ。

バキュームの練習方法

大きな浮き輪を自力で膨らませたことがある人もいるだろう。浮き輪が大きければ大きいほど、できるだけ息を一度に大きく吸い込み、口をすぼめてそれを浮き輪に吹き入れる。その動作こそがバキュームだ。

バキュームと、前述したブレーシングの違いは、バキュームは息を吐いたときに腹をできる限り内側に引き込む。一方、ブレーシングでは腹を膨らませた状態で胴部を固く緊張させるようにする。

ブレーシングは腹を膨らませながら腹横筋を緊張させることによって腹圧を高め、脊柱を保護しながら高重量の挙上を行うのに対し、バキュームは息を吐き出し腹横筋を強く収縮させて、腹を引き絞るイメージでへこませて保持することである。

【初級者向けのバキューム練習】

1床にあおむけになり、膝を立て、足裏は床につけておく。

2肺に残っている空気を全て吐き出す。空気を全て吐き出すことで横隔膜がリラックスし、同時に横隔膜は上方に持ち上がってくる。また、息を完全に吐き出すことで腹横筋を最大限に緊張させることができるはずだ。

3息を全て吐き出したら、腹を内側&下方に押し下げるように力を入れる。息を吐き出しているので苦しく感じるが、できるだけヘソを内側に引き込み、さらに下方に引き下ろすようにし、この状態を保つ(決して無理はしないこと)。

4再び息を大きく吸い込んだら、全て吐き出してバキュームを行う。これを10回繰り返そう。この練習を毎日やることで、バキューム状態を保持できる長さを少しずつ延長していくことができるようになるはずだ。10回を完了させる時間をタイマーで測定しながら、バキュームの練習を日々繰り返していこう。

5あおむけでのやり方に慣れてきたら座位や立位など、さまざまな体勢でバキュームを行えるように試してみよう。姿勢を変えて行うことで、横隔膜を自由自在にコントロールすることが次第に容易にできるようになってくる。このことはボディビルのポージングでとても役立つはずだ。

【上級者向けのバキューム練習】

1バキュームに慣れてきたら、四つん這いの姿勢でのバキュームにも挑戦してみよう。難易度の高いバキュームを練習することで、横隔膜の強化をさらに図り、より理想に近い体幹部を完成させることができるはずだ。

2床に四つん這いになる。このとき、床についた両手が肩の真下に来るようにする。また、股関節は膝の真上に来るように角度を調整しよう。

3 頭、首、脊柱はすべてニュートラルポジション(自然な角度)に保つ。反らせたり丸めたりしないこと。

4準備ができたら、体の中に残っている空気を全て吐き出していこう。

5息を吐き出したら、腹横筋を天井に向けて引き上げるようなイメージを作り、緊張させる。イメージが作りにくい人は、ヘソを背骨に近づけるように意識するといいだろう。四つん這いでのバキュームは、重力に逆らうので難易度が高いのである。

6ヘソを体の中にしっかり引き込んだら、この状態をできるだけ長く保つ。10回を1セットとして行ってみよう。最初のうちは初級者用バキュームの半分の時間しか保持できないかもしれないが、徐々に保持時間を延長できるようになるはずだ。

まとめ

体幹部や腹筋を鍛えるトレーニングというと、動作を伴う腹筋種目ばかりを連想してしまいがちだ。しかし、腹部を構成する腹横筋にまできっちり刺激を行き渡らせて、この筋肉の発達も考慮するなら、今回紹介した横隔膜呼吸、ブレーシング、バキュームはとても大切なトレーニングだ。

より安全に高重量をリフティングしたいリフターはもちろん、芸術的な肉体を目指しているボディビルダーも、横隔膜を意識した呼吸をぜひマスターしよう。ブレーシングとバキュームをしっかりコントロールできるようになれば、まちがいなく自分の目標に近づけるはずだ。

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